R.ターガート.マーフィー『日本経済の本当の話』
@ISBN4-620-31103-0(上)
AISBN4-620-31104-9(下)
概要  私はうそはつきません。と言われると、よけいに疑いたくなるのが人の常です。本書の『日本経済の本当の話』という題名もそれを感じさせるのに十分で、この点損をしているかもしれません。

 さて、実際のところはどうなのか、と言うと、残念ながらこと「経済」に関しては、あるものを「白」とする見方があれば、かならすそれを「黒」とする見方が存在します。それゆえに、ある本の内容が正しいとか、そうでない、とか言うのは、経済を相手にしている限り言明できないことです。

 経済書の中には、「なんとか貧乏人にも株を買わせてやれ」「郵便貯金の残高を増やそう」等の露骨な意図のあるものも多いですが、それらとの比較で言う限り、(表題に似合わず)本書はニュートラルな本だと思います。




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『日本経済の本当の話』(上)
 まず序文で、ホワイトハウスのウエストウイングと日本の大蔵省を訪問したと仮定して、その様子を具体的に記述し、その違いを直感的に描くところから始めています。この序文で分かるように、この本はすべてが具体的、例示的です。

 続いて、第一部「貸している国」で日本の経済が何を目的に組み立てられ、誰によって運営されているのかを説明しています。続いて、第二部「貸し借りの成立」では、その日本経済と米国経済の相互作用によって生じたことを解説し、この半ばで話は下巻に移ります。

 翻訳で薄まってはいるものの、著者自ら言っているように、「ホラー小説風の」語り口で、感性豊かに文章が進んで行くので、経済書としては、非常に読みやすい部類に入ります。

『日本経済の本当の話』(下)
 下巻では、第2部の後半として、日本のバブル経済について平均的な見解に独自の考えを取り混ぜて解説し、第三部「ツケを払うのはだれか」でバブル崩壊後の日本経済とアメリカとの係わり合いをのべています。

 そして、結論「真剣さを取り戻そう」の部分では、日米それぞれの国民が成さねばならないことを、真摯に呼びかけています。そして、最後のP243からP245の内容が、この2冊の本を通じて、最も訴えたかった点でありましょう。

 要約すれば、
 @日本人は自分を支配する機関に対して、説明する責任を求め続けなくては、ならない。例えば、日本最後の自然河川にダムを作る建設官僚や、税金を暴力団への融資を焦げ付かせた銀行の救済に使う大蔵官僚、大きな焦げつきを作る程出世する、減点主義の銀行幹部、彼らに、それがおかしいと思って説明を要求する人達に答えさせるようにしなくてはならない。
 A米国人は、自国の機関に対して、まじめさを要求しなくてはならない。たとえば、香港並みの安い税金で、スウェーデン並みの高福祉社会が実現できるかのように振舞う、政治的契約や、知識人を否定しなくてはならない。そして、調子の良さだけがとりえの政治化や、選挙コンサルタントや、テレビのトークショーのホストの手から、権力を取り戻さなくてはならない。と、結んでいます。

 しかし、個人的には、これは、両国がそれぞれ、最も苦手とする事をやらなくてはならない訳ですから、両国経済の正常化なり、ソフトランディングなりは、かなり困難な事業である、と感じます。