ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』
@ISBN4-7942-1005-1(上)
@ISBN4-7942-1006-X(下)
概要  地球上の各地域では、技術や社会の進歩度合いに大きな差があります。しかし、個々の地域の人種を調べてみると、その能力に大差が無いことはご存知のとおりです。

 本書は、では、なぜ現在の世界の人類の暮らしに、民族、地域毎の差異が生じたのか、を説明しています。

 著者は、これら差異の根本要因が、「家畜に出来る動物と、栽培できる植物の入手とその伝播」にある、と考えています。

 つまり、これらが、手に入った地方では、農業によって、食料の大幅増産ができます。そして、そのために、労働力に余裕が出来て、技術開発を進めることが出来るようになります。

 さらに、家畜と人との共生と、人口増加を原因として、家畜由来の疾病が伝染病として、人間に蔓延するようになります。そして、人々はこれら疫病の流行を繰り返す中で、徐々に、これらに対する免疫を身につけて行きます。

 その結果、鉄器で武装し、文字を使い、致死性の疫病を保菌しつつ、その免疫を持つ社会が出現します。そのような社会が、それ以外の社会と出会うと、ご存知の通り、ヨーロッパによる新世界の征服に代表される現象が生じます。

 このようにして、攻撃力のある文明はそうでない社会を排除して、広がって行きます。

 このように、地球上の夫々の地域がなぜ現在の状況に至っているのかを、実際の動植物の分布と、気候および、その広がりから、平明に説明しています。


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感想  ドクは、本書の主題から少し離れたところで、感銘を受けました。それは、他の文明からある程度隔離された環境では、@限られた資源で生活するために、話し合いを主体とした、攻撃性の低い文化が醸成される場合があること、また、A伝わった(弓矢や鉄砲等の)技術が不要なものとして、利用されなくなる場合があること、が実例として書かれていたためです。

 つまり、近世までの地球のように、「まだ征服するところがある」場合には、攻撃力のある社会が、そうでない社会を滅ぼして広がってゆき、その結果、人類の攻撃性はますます高まって来ました。なぜなら、攻撃力によって、新しい地域を獲得できる、という利益が得られ、その社会がよりいっそう範囲や人口を拡大するからです。

 しかし、現在のように、地球に、もう、征服するところがなくなってしまえば、地球を一つの島と考えてみれば、他の社会(地球外の社会かな)とは、おおいに隔離されています。従って、その中で、攻撃性の低い文化が醸成されたり、危険な技術が放棄されたりする可能性が出てきます。

 つまり、わたしたちが暮らす、現在の世界では、攻撃力を競い合い、知る限りの技術を利用しています。軍事や経済における戦争が常に行われていますし、核技術や、生命科学を、十分な知識無しにふりまわしています。

 これらは、ずいぶん危なっかしいことです。世界の未来を完全に楽観視している方は少ないでしょう。

 しかし、先に述べたように、フロンティアが無くなり、他の文明から隔離されることで、攻撃性の低い文化が醸成されたり、無用な技術が放棄されたりする可能性があるのなら、世界の将来に、全く望みが持てない訳でもない、と感じたのです。