手作り常圧空気電離箱による
放射線測定器の作り方

多少高い電圧(100V)を使用しています
感電する場合もあるので、模倣は自己責任で願います

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ご案内

 電離箱は放射線の測定方法としては歴史の古いものです。また、ガイガーカウンタや比例計数管にくらべて動作電圧が低く、さらに空気を使用できることから、アマチュアにとっても手軽な電離放射線の測定方法として、紹介されています。
http://www.techlib.com/science/ion.html
 電離箱は、電圧を加えた空気に、放射線が当たったときに流れる僅かな電流を測定する装置です。もちろん、空気を流れる電流は極僅かですので、1pAや、さらには数fAといった微小電流を測定する必要があります。
 昔は微小電流を測定するのが難しく「振動容量型電位計」等の大掛かりな測定器が用いられました。しかし今日、CMOSオペアンプの性能が非常に高くなり、200円程度のオペアンプでもこのような電流が測れるようになりました。
 ここでは、安価な汎用CMOSオペアンプを使って、100Vの電離箱を動作させます。この電離箱の感度は、1μSv/hなら確実に、0.1μSv/hならなんとか検出することができる程度です。


測定結果の例

測定結果の例を示します。1.6μSvの実験用線源を近付けて、スイッチを入れ、暫く観察した後、線源を離した場合のものです。
青いグラフが出力電圧です。時折みられる高いパルスは、宇宙線によるものと思われます。一定以上の高いパルスは除外して、移動平均を取ったものが、黒線のグラフで平均線量率を表します。

構造と材料


本機の裏側

 本機は主に4つの部分から構成されています。放射線による電離を測定する「電離ヘッド」(プリアンプ内蔵)、電離箱に電離用電圧を加える「バイアス電源」、電離ヘッドの出力を表示する「表示機」、電離箱の出力をパソコンに記録する「PCインターフェイス」です。


アルミ箔をかぶせて主にγ線を検出中の電離ヘッド

 電離ヘッドの開口部はアルミ箔や目の細かい網(100均の「アクすくい(大)」を使用)でノイズが入らないようい蓋をしておきます。


電離ヘッドの内部

 蓋を外すと、内部が見えます。電離箱はアキカン(業務スーパーの「ウズラ玉子の水煮」を使用)で作られています。液体の入っている空き缶は、内部が塗装されているので、ペーパーで擦り落とします。クッキーやナッツの缶なら、塗装されていないので、この手間が省けます。缶はマイナス極(陰極)になります。
缶の中央に突き出ているのがプラス極(陽極)です。陽極は真鍮パイプで作っています。暗くて見え難いですが、陽極の付け根とアキカンの間が、シールドガードで覆われています。できるだけ無用な電流が陽極に流れ込まないようにするのが電離箱のコツです。


本機の裏側

 本機の裏側は、回路を搭載したプリント基板で蓋されており、スイッチが付いています。3本のスペーサーを外すと、蓋を開けることができます。

分解したところ


電離箱を分解したところ

 電離ヘッドは大きく3つの部分でできています。空き缶で出来た電離箱と、回路を雑音から守るシールドガードと、回路基板(裏蓋)です。これらは全てスペーサとねじで繋がっています。電気を絶縁する必要のある部分には、プラスティックのねじやスペーサを、通電する必要のある部分には、金属のスペーサーを使っています。


分解した様子を裏側から見る

 裏蓋から上へ突き出た陽極が、シールドガードのパイプの中を通り、電離箱に入っています。小さな信号が流れる部分は、とことん金属で覆い尽くす(シールドする)必要があります。


陽極棒と回路(裏板上に作成)

 微小電流を測定するための増幅器は、陽極のすぐ横についてます。極僅かな電流なので、電線で引き出すことが難しいからです。ノイズを防ぐために、増幅器用の電池もすぐそばに取り付けています。この電池は小型(単5サイズ)ですが、12Vの電圧があります。
 陽極の取り付け方に注意して下さい。陽極に流れる電流はあまりに少ないので、陽極が(たとえ絶縁物を介してでも)0Vでない部分と接触しないようにしなくてはなりません。ここでは、アース(0V)となっている裏蓋(丸く切った片面ベーク基板)にプラスチックのねじとスペーサーで固定しています。陽極から他の部分に極僅かな電流も漏れてはいけません。たとえば、陽極の付け根に使用しているプラスティックのスペーサーを指で触って指紋がつきますと、そこに電流が流れて、正しく測定できなくなります。この部分のスペーサーとプラスティックねじは、アルコールなどできれいに清掃して取り付けます。


電離箱の後ろに取り付けたシールドガード

 微小電流の増幅回路はノイズに大変弱いので、完全にシールドする必要があります。シールドガードは増幅回路を静電シールドすると同時に、陽極棒と電離箱の底の穴の狭い隙間(電界が他の部分より強くなる)から散乱電子が流れ混むのを防止します。


シールドガード:電離箱側

 シールドガードをアキカンの方から見た状態です。中央の銅のパイプは0.1mmの銅の板を巻きつけて、はんだ付けで作ったものです。


シールドガード:回路側

 シールドガードを回路側から見た状態です。同じく0.1mmの銅板の帯を巻きつけて、はんだ付けして作ってあります。


回路とシールドを外した電離箱

 シールドガードを外すとアキカンが残ります。空き缶にはプラスティックスペーサーをプラスティックねじで取り付けてあります。この部分は電離電流が流れる訳ではありませんので、スペーサーに指紋が付いても気になりません。


増幅回路

 微小電流の増幅回路です。LMC660を使用しています。4回路入って200円の汎用オペアンプでありながら、平均で入力バイアス電流2fA、入力オフセット電圧1mV、ドリフト1.4μV/℃の性能があります。
 ICの9、10、13、14ピンの付近は汚さないように、また、フラックスが付かないように厳重に注意してはんだ付けします。さらに、9−10ピンの間と、13−14ピンの間に接続している100GΩの抵抗(50GΩを2本直列)は指紋等で汚れてはいけません。その他の部分は多少いい加減に作っても問題ありません。
 50GΩという高抵抗は入手困難ですが、RSで購入できます。(RSは企業対象のように思えますが、個人名でも売ってくれます)この抵抗が一番高い部品で、ゴマのような部品が一つ270円です。
 この抵抗は大型のものは望ましくありません。容量成分が大きくなり、早いパルスに反応できなくなります。また、高抵抗を使わないT回路で代替することも望ましくありません。ノイズやオフセットが大きく増幅されてしまいます。
 

ななめから見た増幅回路

 出力段の入力抵抗を立体的に組み立ててしまったので、斜めの写真もどうぞ。チップ部品を使って立体配線することで、無用な容量を減らすことができます。また、横切る磁束も少なくなるので、ノイズにも強くなります。
 電源の配線には、ダイソーのヘッドフォン延長ケーブルに使われている色付きリッツ線を使用しています。細くて柔らかく、はんだゴテを当てると被覆が剥がれるのでべんりです。


電離箱ヘッドの増幅器回路)

 電離箱ヘッドに内蔵された増幅器の回路です。本来の働きをしているのは、上半分の主回路です。下半分の副回路は主回路と殆ど同じ構成となっており、その出力電圧を監視することで、主回路のオフセット電圧の変化を予測し、補正することができます。
 主回路の動作のみ説明します。  回路は入力段と出力段に分けられます。電極(陽極)で集められた電子は、先ず電流を測定する回路(入力段)に入ります。入力段は、帰還に100G(50G+50G)の抵抗を使っているので、10fAで1mVの出力がでます。この50GΩの部分はコンパクトに実装しないと、浮遊容量で動作が遅くなってしまいます。
 出力段は電圧を10倍に増幅する回路です。こうすれば、後の回路でオフセットを気にする必要がほとんどなくなります。1Mの帰還抵抗には10pの帰還容量を付けて不要な広域をカットしています。  12Vの電源と抵抗で分圧して仮想アースを作っていますので、あまり大きな電流を流すことはできません。(レールスプリッタというICも使ってみましたが、微妙な電圧変動があり、ここには適しませんでした)
 入力段と出力段を繋ぐ抵抗(100k)が比較的高い値であることも大切です。初段は非常に微妙な電流で動作しているので、できるだけ軽い負荷で自由に動けるようにしてやる必要があるからです。



 電離箱の出力をそのままテスターやオシロに繋いで測定することもできるのですが、ここでは、簡易なメーター駆動回路を使用しています。
 ボリウムはオフセット電圧を調整するものです。



 汎用CMOSオペアンプのLMC6484を使用しています。



 回路はこのようになっています。電離箱ヘッドの2種類の出力は本来別々にPCに入力して、テーブルを作って補正計算しなくては本来の精度がでませんが、ここでは、差動増幅器で処理しています。  いずれにせよ、電離箱ヘッドのオペアンプに負荷を掛けたくありませんから、入力インピーダンスは高くしておきます。  メータ表示ようの「平均化回路」に多少工夫を行っています。宇宙線のような強くて短いパルス(これを測定したい場合もあるでしょうが)を無視して測定できるように、コンパレータと積分器を使用した「定速度積分追従回路」を使用しています。



 電離箱を動作させるためには、50V〜1kVのバイアス電源が必要です。電圧の正確さは低くても問題ありませんが、電圧がふらつくと、静電結合の影響で電離箱の出力が大きく変化しますから、ハムノイズ等を含まない電源が必要です。
 ここでは、ダイソーの2個で100円の9V電池の使い古しを使用しています。バイアス電源では、極僅かの電流しか流れないので、他の用途で使い切った電池でも使用できます。
 9Vのスナップ式電池は図のように安易に接続して、どんどん電圧を増やすことができます。
 電圧を上げると、イオンの移動が早くなり、短いパルスも捕らえることができるようになり性能が上がります。ただし、電圧を上げすぎると、陽極の付近で電子雪崩(アバランシェ)が発生して、一度流れた電流が止まらなくなってしまいます。こうなると、もはや電離箱とは呼ばず、比例計数管と呼ばれます。比例計数管やさらに電圧を高めたGM管は、弱い放射線でも大きな出力出ますが、流れた電流を止めるために、空気ではなくアルゴンとアルコールの混合ガス等(クエンチガスと呼ばれる)を使う必要があり面倒になります。



 電池のスナップは離れた場所に必要ですから、スナップを2つ購入して使用するか、あるいは節約する場合は、写真のようにスナップを切り離して、プラスとマイナスに別々の電線を取り付けます。


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